最高裁判所第一小法廷 昭和27年(ヤ)3号 判決 1953年4月30日
主文
本件再審の訴を却下する。
訴訟費用は再審原告の負担とする。
再審原告は、上告審の判決を破棄する、訴訟費用は一、二審とも再審被告の負担とする。との判決を求める旨申立て、再審被告は、本件再審の請求を棄却する旨の判決を求めた。再審原告の陳述した再審事由は後記のとおりであり、再審被告は再審原告の請求を棄却する。訴訟費用は再審原告の負担とするとの判決を求める旨答弁した。
理由
職権を以て調査するに、本件再審の訴は当庁昭和二六年(オ)第九号農地売渡計画承認取消請求上告事件につき、昭和二六年一二月一八日第三小法廷の言渡した判決に対して、判決に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断の遺脱あることを事由として昭和二七年二月五日提起されたものであるが、前示上告事件の判決正本は昭和二六年一二月一九日再審原告たる該上告事件の上告人に送達されているのである。本件で主張せられる所論判断の遺脱というような再審事由は、その事柄の性質上、通例原判決正本の送達を受けこれを一読すれば容易に覚知し得る筈のものであるから、別段の事情のない限り再審原告は前示判決正本送達当時所論判断の遺脱があつたことを知り得たものとなさざるを得ない。しかるに再審原告は右判決正本の送達を受くるや直ちにこれを読了したことを自認しながら、ただその後研究の結果昭和二七年一月二〇日に至りはじめて本件再審事由を覚知したというだけで、同日までその覚知を妨げた特段の事情については何等の主張も立証もなされないのである。
さて民訴四二四条一項によれば、再審の訴は当事者が判決確定後再審の事由を知つた日から三〇日内に提起しなければならない旨規定されている。そして、当事者が判決確定前に再審の事由を知つた場合においては、通例、上訴によりこれを主張しなければならないのであつて、もし、これを知りながら上訴により主張することなく、判決を確定せしめるならば、爾後はその事由に基き再審の訴を提起することは許されないこととなるのである(同法四二〇条一項但書後段)。しかし、最終審の判決におけるが如く、これに対する上訴の途が存在しない場合にあつては、判決確定前に覚知した事由であつても、その確定後再審の訴を以てこれを主張し得るものといわなければならない。そしてこの場合民訴四二四条一項所定の三〇日の期間は、勿論、再審の事由を知つた日からではなく、判決確定の日からこれを起算すべきものと解するのを相当とする。蓋しこの事は、再審が確定判決に対する不服の訴であることに徴しても、また法律が再審の時効期間の起算に関し、再審の事由が判決確定後に生じたときはその事由発生の日からと定め、判決確定前に生じたときは判決確定の日からと規定していることに照らしても(同条三項、四項参照)、当然の帰結ということができる。
果して然りとすれば原判決は前示判決正本送達の日から一〇日を経過した(民訴四〇九条ノ五参照)昭和二六年一二月二九日(土曜日)の終了を以て確定したこと勿論であり、従つて本件再審の訴は同日から起算し三〇日間、すなわち昭和二七年一月二八日までに提起されなければならなかつたものであるに拘わらず、前説示の如く同年二月五日に提起されたものであるから、本訴は不適法として却下せざるを得ない。
よつて訴訟費用につき民訴八九条を適用し主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)